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私はすぐ、彼女が何か打ち明けにくいようなことを無理に言い出そうとしているらしいのを 覚 ( さと )った。
私はなんだか不満そうに黙っていた。
それは私達がそこに置きっぱなしにしてあった絵が、画架と共に、倒れた音らしかった。
いつか離れてしまっても、お互いを支えに生きていく。
すこしばかり風が吹いていたが、それすら気持のいいくらい軟らかだった。
私は終日、ホテルに 閉 ( と )じ 籠 ( こも )っていた。
夕方になると、戸外で少しでも楽な呼吸をするために、バルコンまでベッドを引き出させる患者達が多かった。
「私、すこし息ぐるしいの、草のにおいが強くて……」 「じゃ、ここも締めて置こうね」 私は、殆ど悲しげな調子でそう応じながら、扉の握りに手をかけて、それを引きかけた。
その何気なしにしている、それでいていかにも自然に若い女らしい手つきは、それがまるで私を愛撫でもし出したかのような、 呼吸 ( いき )づまるほどセンシュアルな魅力を私に感じさせた。
……それに毎日、病院の中をずいぶん往ったり来たりしているんだからなあ」 私はそんな会話をそれ以上にすすめないために、毎日廊下などで出逢ったりする、他の患者達の話を持ち出すのだった。
……おかしなお父様でしょう?」 「これ、お父様のお見立てなの? 本当に好いお父様じゃないか。
TEXT:空屋まひろ. 私はそれに近寄って、殆ど私の顔が彼女の足のさきにくっつきそうになるように 屈 ( かが )み 込 ( こ )んで、その帽子を拾い上げると、今度は自分の手で、さっき彼女がそうしていたように、それをおもちゃにし出していた。
父は二日滞在して行った。
私はその目を避けるような 恰好 ( かっこう )をしながら、彼女の上に 跼 ( かが )みかけて、その額にそっと接吻した。
そう云えば、どうかすると日に何度も見かけた、あの附添看護婦の腕にすがって廊下を往ったり来たりしていた大きな男が、昨日から急に姿を消してしまっていることに気がついた。
こうして私達のすこし風変りな愛の生活が始まった。
「それにとても 可笑 ( おか )しな夢を見たの。
それはみんな 莟 ( つぼみ )らしかった。
そのうちにすべてが他の季節に移って行った。
そして 薔薇色 ( ばらいろ )の 寝衣 ( ねまき )らしいものを着た、一人の若い娘が、窓の縁にじっと 凭 ( よ )りかかり出した。
そんな彼を守りたいという逆告白まであり、ただ守られるだけではない女性の強い一面が伺える。
……どおれ、この帽子、ちょっとかぶって御覧」と私が彼女の頭にそれを冗談半分かぶせるような真似をしかけると、 「 厭 ( いや )、そんなこと……」 彼女はそう言って、うるさそうに、それを避けでもするように、半ば身を起した。
ジブリ映画の前に、完成していた『風立ちぬ』があった 『風立ちぬ』と聞いて思い出すのは、ジブリ映画。
私は、彼女の昼寝を守るために、前よりも一層、廊下の足音や、窓から飛びこんでくる蜂や 虻 ( あぶ )などに気を配り出した。
そんな彼らの絆を、中村中は明るいテイストにはせず『風立ちぬ』に込めている。
そのまますぐその咳は止まったようだったが、私はどうも気になってならなかったので、そっと隣室にはいって行った。
それからそれを黙って聞いていた私の方をじっと見て、「君もひどく顔色が悪いじゃないか。
私はそういう姿を認めると、まるで子供のように木の枝を掻き分けながら、その傍に近づいていって、二言三言挨拶の言葉を交わしたのち、そのまま父のすることを物珍らしそうに見ていた。
第十七号室の患者の死がそれを急に目立たせた。
「思ったよりも病竈が拡がっているなあ。
あんなに私に何もかも任せ切っていたように見えたのに……」と私は考えあぐねたような 恰好 ( かっこう )で、だんだん裸根のごろごろし出して来た狭い 山径 ( やまみち )を、お前をすこし先きにやりながら、いかにも歩きにくそうに歩いて行った。